木村氏が会長の日本振興銀、親族会社に1億7千万円融資 という話が元旦の朝日新聞に出ていた。木村剛氏の妻が代表取締役で自分自身も取締役であった会社に、1億7千万円を、取締役会長というトップ職を務める「日本振興銀行」から融資したという話。朝日のスクープだ。(当局のリークと見るべきか?) また、担保も通常、銀行融資では単独で担保性を認められることのあり得ない非上場株式をあてていたという話。事実だとすると、これは、当時、日本振興銀行の現役取締役社長本人が、融資直前まで自分自身が100%株主で、取締役も占め、また融資実行時には、妻が取締役であり自身も大株主である親族会社への融資であったということから、明らかに利益相反取引だ。にも関わらず、融資の決済には木村氏自身が社長として加わったという。また、担保性の低い未上場株式を担保の融資であり、担保割れの可能性が極めて高い。朝日の記事どおりだとすると、商法上の特別背任並びに刑法上の背任に抵触する可能性がある。取締役の利益相反取引は、商法の規定により本人が議決に参加しない取締役会決議が必要である。もちろん、利益相反の融資の審査に本人が加わるというのは誤りだ。もしもそのような取締役会決議がなければ、それだけで商法違反となるはずだ。記事の内容が事実だとすると、当時、代表取締役社長の木村氏は、特別背任に相当する可能性がある。もしもそのような取締役会決議があったとしても、内容から、やはり特別背任に相当する可能性がある。また、その場合、決議した取締役も背任にあたる可能性がある。事実、真偽の程は定かではないが、金融庁のみならず、東京地検が動いているらしいという噂も最近聞いた。一般に特別背任事件であれば、資本金が5億円未満だと警察が動き、5億円を超えると地検が直接動く。もちろん、日本振興銀行は資本金43億円であり、5億円を遥かに上回っているのであり得る話ではある。通常、日本振興銀行クラスの融資は一件あたり、500万円から1000万円程度であり上限でも4000万円ということだから、1億7千万円という突出した金額も当然、問題となるだろう。ただ、朝日以外のマスコミがその後、これを報道していないのも気になる。

小泉・竹中「金融改革」で木村氏が活躍したことは間違いないが、そのすべてのプラスのポイントも今回の件が事実なら、すべてチャラどころか、大変なマイナスだ。木村氏のことは評価していたのだが、事実なら、大変、大変残念だ。金融再生プログラムで不良債権を減らす役割のはずが、自分の銀行では不良債権を自分あてに作っていたとなると、ジョークにもならない。もちろん、朝日の言っていることをそのまま鵜呑みにするつもりもないのだが。

ここまで書いたところで、木村氏自身が、ブログで、この件について言及しているのを発見した。氏の論理を乱暴なのを容赦してもらって、ごく単純に要旨をまとめると、日本振興銀行の融資は「情実融資」ではなく、「アームズ・レングス」で行っているという論理だ。氏のブログから引用すると、『「アームズ・レングス・ルール」というのは、関係者間の取引については、他のお客さまと同等のルールを適用しなければならない、というルールのことです。要するに、エコヒイキするなというルールです。』ということだ。つまり、ご自身の配偶者が代表取締役を務める会社であっても、決して、エコヒイキして融資したわけでないという主張だ。もしも、そうであるならば、他の会社にも、1億数千万円オーダの融資を、未上場株式を担保に融資しているぞという論理にも聞こえ、上にも書いたように、不良債権キラーの木村氏の基本的な立場に矛盾しているように感じる。また、日本振興銀行では、通常担保性を認められない未上場株式の中で、自行株式のみを、例外として担保性を認めたと朝日新聞の記事にあったが、これが事実なら、どうも、自分の銀行だけを「エコヒイキ」しているようにも感じ、「アームズ・レングス」でないように感じるのは私だけだろうか? 

ただ、私が注目しているのは、「エコヒイキ」しているか否かではない。たとえ、「エコヒイキ」していない「アームズ・レングス」の取引であろうとなかろうと、商法の規定で、株式会社である日本振興銀行の取締役が、自分が取締役である、(また配偶者が代表取締役である)会社との取引は「利益相反取引」であるということである。「エコヒイキ」か否かは関係なく、すべての「利益相反取引」は、特別利害人(つまり木村氏)が、決議に参加しない、取締役会決議が必要だということだ。もしも、そのような決議がなければ、その取引自体が、会社が認めたものではなく、特に、その特別利害人が代表取締役であった木村氏の場合は、特別背任にあたる可能性があるという点である。また、もしも、そのような取締役会決議があった場合にも、その取引が著しく会社に損害を与えるものであった場合は、やはり代表取締役の特別背任と、決議した役員全員の背任の可能性があるという商法上の事実である。この点については、利益相反取引であった親族会社への融資を承認する、木村氏が決議に参加しない取締役会決議があったか否かも含めて、木村氏にブログ上で是非、明らかにしてもらいたい。代表取締役ならびに取締役が行う取引は、例え、「エコヒイキ」ではなく、「アームズ・レングス・ルール」に則ったものでも、相手会社が自分が取締役であったり、支配的株主であったりする会社であれば、「利益相反取引」であり、配偶者が代表取締役ということも、十分、「利益相反」的であるということである。特に、融資の直前に、自分が有限会社の単独の取締役 (つまり株式会社の代表取締役)を退き、法人を株式会社化して、妻を代表取締役に据えたという行為が、両方の会社の代表取締役であるという、最も強度な「利益相反」性を間接化するために、意図的にしたものではないかという疑惑として見られる可能性について、十分説明される必要があるのではないだろうか。

つまり、氏のブログでの説明は、金融庁に対する、「融資は平等で、エコヒイキはなかった」という論理には聞こえるのだが、商法上の特別背任の可能性に対する説明にはなっていないと木村氏に指摘したい。