ATR主催の川人先生のブレインインターフェースセミナーにいってきた。ブレインインターフェースは、脳波やfMRI情報を使って文字入力や車椅子などを制御する研究分野。ATRは、私も90年と91年にCMUからの滞在研究員で行ってたことのある政府予算を受けてる関西学術研究都市(けいはんな)にある大きな研究所。

脳波やfMRIを使うブレインインターフェースは、私も95年ごろジャストシステム基礎研究所長として、当時のジャストシステム「脳波ワープロ」研究のテーマだった。ハーバード大学医学部と共同プロジェクトを立ち上げて、研究員をハーバード医学部のfMRI研究プロジェクトに派遣したりと結構派手にやっていたのだが。ただ、ちょうどオウム事件が重なって、私が脱洗脳したての元オウム信者が私のところで目撃されたり、脳波計測用の端子がたくさんついた黄色い頭にかぶるキャップがオウムのヘッドギアに似てたせいとかで、「苫米地はオウムだ」みたいな噂が取引先まで流される嫌がらせが絶えなくて、ジャストシステムは退職せざるを得なくなり、私のブレインインターフェースプロジェクトも当時、解散となった。

それから、10年、ブレインインターフェースは大分実用化に近づいたようだ。今後、ますます、脳の話がお茶の間の話題に上っていくのだろう。そういう社会風潮のなか、講演中、川人さんは、何回か、脳科学者ではない自称専門家の脳に対する発言が問題であるということを繰り返し言っていた。その気持ちはよくわかる。個別質疑の時は、毎日新聞の女性記者らしきひとが、最後まで、その問題のある人たちの実名を出してほしいと食い下がっていたが、実名を出すのは、控えていた。そういう問題のある人は、学術論文の数を見ればすぐわかるという風に川人さんは言っていた。おっと、オウム事件以来、民間応用開発に移って、学会から遠のいていたから、それは、僕も耳が痛い話だ。もちろん、その間、研究成果はばっちり上がってるつもりではあるけど。

公演中、唯一気になったのは、fMRIの血流計測は除いて、基本的には、電気信号の計測が、「脳」の状態を表すというのが今回のブレインインターフェースの話題の大前提だから、脳の働きが電気的なものという誤解を与えるような感じがしたところだ。その点は、個別質疑の時に、川人さんと立ち話したが、将来は、ドーパミンとかの動きもfMRIとかで計測できたらいいですねという返答だった。

話題がぶれるので質疑しなかったけど、同様に、fMRIや脳波で計測されるデータは、脳の物理的な信号レベルのデータであるから、脳機能レベルまで考えると、より高次な抽象的な思考そのものと、それと物理レベルデータのかかわりあいが私などは特に興味がある問題なのだけど、ブレインインターフェースという視点だとどうしても、物理的な情報処理をどう、脳とマシンでつなぐかという技術とその統計処理の優位を競う話に傾きがちであるなという感想を持った。