フィギア・スケートのジャネット・リンや日本ハムのヒルマン監督、ラップミュージシャンVERBAL(mflo)がフィーチャーされた米アーサーS・デモス財団による「パワーフォーリビング」(パワー・フォー・リビング)のテレビCMが話題を集めているようだ。ネットでの書き込みなどをみると特にVERBAL氏の出演が若者の人気を集めているようだ。

 

かつて2002年には、サッカー選手のPaulo Sergioや、ロックミュージシャンのCliff Richardなどを起用してドイツで話題になったのが、全く同じデモス財団の"power for living"テレビCMである。ドイツ政府は調査の結果、デモス財団の"power for living”のテレビ、ラジオCMをカルト活動として禁止したのが記憶に新しい。ドイツでは、宗教、思想、政治のテレビ、ラジオによる広報活動は違法である。また、またヘラルトトリビューン紙によると、ドイツ国内ではデモス財団とサイエントロジーの関係が報道されている。

 

「パワーフォーリビング」事業を行なっているデモス財団が資金を援助しているキリスト教団は、喫煙、同性愛、妊娠中絶を禁止する超保守的な右派キリスト教原理主義というのが、これまで国外で報道されてきたくくりであり、少なくもドイツではテレビCMそのものが禁止されている。海外のメディアでは「非白人と非キリスト教徒を皆殺しにせよ」とまで主張している極右グループとの関係まで書かれている。

 

また、CMに起用されたスーパースターのスポーツ選手や芸術家を起用してのメッセージが、個人の超人化というところに偏っており、キリスト教本来のコミュニティ性、博愛性に欠如したカルト的教義であるという批判もある。超人志向というところが、かつてのオウム神仙の会を連想させ、また、超保守的差別主義を感じさせ、私には強い違和感がある。かつてのナチズムの反省から個人優性による超人主義に強い嫌悪を持つドイツ国民が排斥したのはうなずける。

 

ただ、教義がなんであろうと、信教の自由は自由として、問題なのは、「パワーフォーリビング」がカルトであるか否かではない。特定の宗教の宣伝を公共の電波が許すことである。テレビ朝日が既に彼らのCMを流し始めており、また、日本テレビが近々テレビCM放映を開始する予定であるという事実である。また、これらテレビ局では、ドイツでのCM放送禁止を知った上での確信犯であるという情報があり、これは、ドイツ政府が5年前にしたように、総務省にすぐに介入してもらう必要がある。

 

正当な宗教であろうと、カルトであろうと関係なく、いくら経営が厳しくても、どんな大金を積まれても、テレビ局は、特定の宗教、宗派のCMを絶対に流してはいけない。ドイツのように法で禁じていなくても、それが、電波法・放送法で守られた公共の電波の責務であり、テレビマンの最低限のルールである。

 

ところが、なぜか「パワーフォーリビング」の広告は問題がないといっている有識者もいるようだ。私は絶対にそうは思わない。この件について更に取材したい方は、lecture@tomabechi.com まで、ご連絡を。

 

 その後の記事 パワーフォーリビング:

http://www.tomabechi.jp/archives/50316091.html

http://www.tomabechi.jp/archives/50315755.html

http://www.tomabechi.jp/archives/50312412.html

http://www.tomabechi.jp/archives/50314142.html

http://www.tomabechi.jp/archives/50314381.html

http://www.tomabechi.jp/archives/50314486.html

 

キリスト教全般: http://www.tomabechi.jp/archives/50316486.html

 

※テレビやラジオに流してはいけないのは、ドイツの法にあるように、もちろん、思想や政治も同様だ。極めて厳しい制約の中で選挙制度の一貫として、公平な政党広報活動を制度としてテレビで許しているのは唯一の例外で、ぎりぎりの線である。 ただ、これさえも、米国での昨年の選挙がYouTubeに移ったように、今後は、電波法・放送法の本来の趣旨からも公共の電波では行なわず、私的発信としてのネット媒体に移行する時期が来ていると私は思っているが。