産経新聞に、
トヨタ営業益最高更新へ 今期2.4兆円超 国内経済に追い風
というスクープ記事が出た。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/131230/biz13123007570003-n1.htm

 トヨタ自動車の平成26年3月期の連結営業利益が2兆4千億円を超え、6年ぶりに過去最高を更新する見通しとなった...製造業で国内最大のトヨタの最高益更新は、アベノミクスによる日本経済復活の象徴となりそうだ。

とある、

トヨタのサイトには今年9月末までの数字が、第2四半期決算情報 (2013年11月6日)としてあるのが最後なので、12月末の第3四半期の数字さえ投資家にIRされてない段階で、産経のみが来年の3月末の年次決算の数字をスクープしているのは、何らかのリークによる世論誘導の疑いが濃い。私も大企業財務にいたので分かるが、リーク元はトヨタ財務関係者ではないはずだ。プロの財務マンは、企業財務情報のIRが全ての投資家にフェアでなければならないことを良く良く分かっているからだ。というか、トヨタ関係者がリーク元であれば、インサイダーや株価操作を含む証券取引法などの違法行為の疑いさえあるので、トヨタ関係者ではない何者かによるものだ。もしも、トヨタがこのような数字を出すならば、決算予想などの形で、会社のホームページに堂々と出し、全ての投資家に同時に広報しなければならない。

何と言っても、経団連御用達の日経にはない産経のみのスクープなので、何らかの裏があるはずだ。一つ推測されるのは、靖国神社参拝でアメリカ政府にまで批判された安倍さんへの援護射撃だろう。自国の総理に逆境で援護射撃をするのはいいが、経済議論で世論をミスリードするのはいけない。

9月末の四半期報告書
http://www.toyota.co.jp/jpn/investors/library/negotiable/2013_9/all.pdf
を見れば分かるが、

トヨタの売り上げの内訳は、ラフに言えば、1/3が国内自動車販売、1/3が海外自動車販売、残り1/3が金融収支。海外自動車販売の大半は北米。金融収支に貢献しているのは海外ものデリバティブによる利益に違いない。つまり全売り上げの2/3程度が外国通貨建てで、ほとんどがドル建てだろう。トヨタの決算は海外子会社や金融子会社の連結決算。だから、営業利益が過去最高になるのは、単に円安だからだけの理由で他の理由は一切ない。実際、9月時点でのトヨタの国内自動車販売は、四半期報告書によれば、前期比マイナス7.6%であり、トヨタの国内自動車販売に関しては、アベノミクスによる日本国内での景気の大幅悪化を示している。奇しくも、今日の日経新聞朝刊に出ている個人サーベイでは、78%が景気回復の実感ないと答えており、産経新聞の論調に矛盾している。

アベノミクスは、金融政策、財政政策、成長戦略についての話で為替は本来関係ない。アベノミクスについては、現在1年経った今の分析を執筆中で、来春刊行予定なのでそちらを見て欲しい。為替が関係ないのは、我が国は、GDPが500兆円あり、そのうち輸出は45兆円程度の1/10以下の内需国であることが一つ。更に輸入も同額程度あり、為替の効果は相殺されるからだ。もちろん円安は、全てのエネルギー価格、原材料価格にコスト高で来るので長期的にはいいはずがない。円安による為替インフレの影響はこれからジワジワ出て来るが、これを称して、2%のインフレターゲットの達成でデフレ解消だなどという詭弁は許してはならない。

金融緩和にしてもBIS規制をいじらず、日銀が円を刷っただけなので、現金はどこのメガバンクも日銀の当座預金に置いてあるだけで、日本中の中小企業は、信用保証協会の保証さえもが断わられる状況が悪化している。トヨタ型の大企業は内部留保をどんどん進めているが、中小企業は財務諸表がボロボロだからだ。円安で儲かってるのは、収益の主要部分を海外に移行済みの一部の大企業だけだ。トヨタがその代表。海外でドル建てで稼いで、連結決算で円換算で計上するから、見かけ上の利益が大きくなるだけだ。もちろん大企業集団なので、見かけの数字は膨大だが、国内の景気には貢献しない。経済的には、彼らは多国籍企業であり、日本企業と見るべきではない。


日本国内の景気を具体的な数字で見れば、10月の経常収支は赤字だった。半期で5兆円のマイナスであった。輸出は円安にも関わらず伸びなかった。トヨタのような一部の大企業が黒字に見えるのは、上記のように連結決算時に海外子会社の売り上げが見かけ上円安で大きくなるからで、それぞれの海外子会社は為替が関係ないので実際に儲かった訳ではない。結果、今年末の関係省庁仕事納め時の数字は、貿易収支は10兆円の赤字である。これは役所の計算なので事実だ。また、サービス収支も2兆円の赤字であり、所得収支の赤字も確定した。これらにより、今年の我が国のGDPはマイナスが確定した。

これらは、霞が関の官庁による生の数字である。今年のGDPマイナス成長は確定したのだ。安倍総理は、つい最近もGDPがプラスであるかのような談話をしているので、側近が誤った数字を伝えている。安倍総理は知っていて嘘をつくような人物ではないだろう。もちろん政府は来年に今年のGDPなどの数字を発表するにあたって、色々お化粧するように関係省庁に指示を出すこともあり得るが、生の数字を国民は知っておくべきだ。

政府の税制調査会は、今年、前代未聞の三回の税制改正大綱をまとめた。頭が下がる思いである。彼らが言うような、10%を優に超える品目別の消費税の時代がきっと来るのだろう。

そして、今は選挙の合間であり、自民党総裁選の合間であって、政治的な駆け引きでは、理想的な増税のタイミングだろう。ただ、経済的には最悪の増税タイミングだ。特に消費を失速させる消費税増税は間違いなく誤ったタイミングだ。自民党内部では、4月の8%への消費税増税(2015年10月に10%)が固まってしまったようなので、公明党には、4月の増税を徹底的に反対して欲しい。

上記の産経新聞記事は、4月の消費税増税に合わせて、駆け込み需要で、トヨタの国内販売は3月末に向けて上向くだろうと、乱暴な論調だ。確かに3月末決算が多い経団連企業の年次決算効果を狙っての「アベノミクス」広報効果を計算しての4月増税なのだろう。ただ、この記事の論理はそのまま、4月以降の同等以上の販売台数ダウンを表している。このような恣意的な記事は大手メディアは書くべきではない。

このような状況下でありながら、政府は4月に消費税増税を強行しようとしている。

今からでも4月増税を止めないと、日本経済はとんでもないことになる。