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ポール・ローゼンツヴァイク著・苫米地英人解説 「サイバー世界大戦~すべてのコンピューターは攻撃兵器である」(サイゾー刊)http://amzn.to/1Pxj1jK が発売開始した。現場のトップエキスパートが、サイバー戦争時代のサイバー攻撃の最新実態を詳細解説。

サイバーの専門家に最新の知識を持って欲しいだけでなく、日本人全てに、私達がサイバー戦争下にいることを知って欲しい。本書により、政府も「既に対策しています」ではなく、本当に対策を始めて欲しい。そのためにも皆さん全てに読んで欲しい。以下、解説者であるカーネギーメロン大学CyLabフェロー(つまり私)のまえがき全文。CyLabはサイバー戦争レベルのサイバー攻撃並びに防衛を研究する専門機関だ。



解説者まえがき
苫米地英人

日本年金機構による個人の年金情報漏洩問題をはじめとして、ここ最近、日本でも悪意のあるコンピューターウイルス(マルウェア)によるサイバー攻撃事例が増えている。

私に限らず、サイバー攻撃の危険性をよく理解している人たちは、すでに20年ないし30年も前からその危険性を指摘し、早急に対策を講じるようにアドバイスしてきたのだが、ほとんどの政治家や官僚たちは、そのアドバイスを徹底的に無視し続けてきた。

その結果が、昨今表面化したお粗末なサイバーセキュリティにつながっている。

政治家は自身が「無知」なのと、サイバーセキュリティが「票につながらない」との判断との二つの理由で無視したのだろうが、日本の未来を担うべき官僚たちが「無知」というのは困ったものである。

ごく一部の賢くて能力のある官僚(特に若手に多かったと思う)を除いて、ほとんどがサイバーセキュリティの重要性を認めず、それどころか予算削減の第一候補とされ、緊縮財政の格好のターゲットになってしまった。

これによって、日本のサイバーセキュリティは他の先進諸国のそれと比べ、20年から30年も遅れてしまったのだ。

よいことかどうかは微妙なところだが、日本でもサイバー攻撃が相次いで起こっている昨今、多くの一般国民たちがサイバーセキュリティの重要性に気付きはじめ、それにつれて政治家、官僚たちもようやく重い腰をあげつつある。

政治家にとってはサイバーセキュリティの問題が票につながる一大事となり、官僚にとっては緊縮財政の中においても予算獲得の材料となりはじめたのだろう。

動機はともかく、サイバーセキュリティの問題が政治の世界で真剣に語られるようになり、具体的な取り組みとして動きはじめているのは歓迎すべきことである。

ただし、本書は、個人の年金情報を盗み取ったりといった、犯罪レベルのサイバー攻撃についての本ではない。
たしかにこうしたサイバー犯罪についての言及もされているが、主題は「サイバー戦争」についてである。

「サイバー戦争」とは何かについては本書を読んでいただくとして、ここでは「国家、もしくはそれに準ずる組織による、他国(もしくはそれに準ずる組織)に対する政治的意図を孕んだサイバー攻撃」ぐらいに理解していただければよいと思う。

あるいは、国家間の戦争を優位に進めるため、もしくは決着をつけるために行われるサイバー攻撃と考えてもよいだろう。
国家間の戦争は、物理的軍事力のぶつかり合いからサイバー戦争へとその戦場を移している。

サイバー戦を制するものが、戦争(国家間紛争)を制する時代が来たのである。

本書は、そうした「サイバー戦争」について、細かなところまでしっかりと書かれた本である。

現代の戦争は、軍備による物理的な破壊合戦ではなく、サイバー攻撃で決着がついてしまう。

その理由は数多くあるが、最大のポイントはあらゆる軍備、兵器は高度に情報化されており、IT技術なしにはほとんどまともに機能しないということがある。

つまり、サイバー攻撃によってシステムを乗っ取られたり、機能を麻痺させられたりしてしまえば、ほぼすべての軍備、兵器はその機能を失ってしまう。

さらに、国民生活に不可欠なインフラやライフラインも高度に情報化されている。

例えば、電力システムを乗っ取ってしまえば、大都市圏に大停電を起こすこともできる。

電力のみならず、ガス、水道、電話、インターネットなどのインフラシステムもサイバー攻撃で乗っ取られれば、すべて麻痺してしまう。

銀行のオンラインや証券取引所のシステムが乗っ取られれば、経済活動は大混乱に陥る。

原子力発電所のシステムが乗っ取られれば、東日本大震災後の東京電力福島第一原発事故など比較にならないほどの放射線被害が生じる。

いま列挙したうちの、ほんのいくつかが実行されるだけで、その国はもはや戦争どころではなくなるはずだ。

反撃をしようとしても、軍事システムが乗っ取られているのでまるっきり機能しない。

しかも、サイバー攻撃の多くは攻撃者が特定されないように、巧みに隠蔽工作がなされている。

攻撃者(敵国)が戦争目的で本気でサイバー攻撃を仕掛けてきたら、そのときにはもうなすすべがないのである。

このことがわかっている政治家、官僚がごく少数であることは、日本という国家にとって非常に危険なことだが、彼らが頼りない以上、多くの人に本書を読んでいただいて、国民の気付き、目覚めによって大きな声にしていくしかあるまい。

さて、いまここで述べたことは、サイバー攻撃(サイバー兵器)が「戦略兵器」であることを表している。
「戦略兵器」とは民間人を攻撃するための兵器のことだ。

これに対して、民間人ではなく、戦場の軍人を攻撃するための兵器を「戦術兵器」と呼ぶ。

つまり、ひとたびサイバー攻撃が行われれば、その被害を被るのはわれわれ一般国民なのだ。

他人事では済まされない。
為政者たちが暢気なのは、それが自身の一票につながらないからだ。

ならば、サイバーセキュリティが一票につながり、サイバーセキュリティをないがしろにする政治家は選挙で当選できないことを彼らに知らしめればよい。

国民の気付き、目覚めとはそういうことだ。

本書が翻訳されて、日本で出版される意味とはまさにそこにあると言える。

ぜひ、多くの人に読んでいただき、サイバー戦争というものの現実を知っていただきたいと思う。
そして、その気付き、目覚めを多くの人と共有し、発信して(いまや個人が世界中に声を発するためのツールがたくさんある)、さらには投票行動へとつなげていってほしい。

平和な世界をしっかりと築き上げるためにも、本書に書かれている事実を多くの人に知っていただきたいと思っている。