ブロックチェーンプラットフォームを利用した取引は、先日トランザクションチェーンの計算量の複雑性を示した(http://www.tomabechi.jp/archives/51560563.html)通り、計算負荷が大きい。さらにブロックチェーンそのものと、マイニングの計算量もある。実際、ビットコインでは、現在も世界中の取引所で承認詰まりや新規送金を受け付けない事態が発生している。これが、ビットコインをフォークせざるを得ない理由である。

本来、取引所などのイントラネット内処理もプライベートブロックチェーンの形でブロックチェーンを維持しなければ、オフチェーン化した時のセキュリティを維持することが出来ないが、実際は、技術力、コストなどの理由で内部ではブロックチェーン化されていない。

プライベートブロックチェーンになっていないオフチェーン処理では、不正送金や価格操作などの不正を制止検証することが出来ないという問題に加えて、一番送金トランザクションが多い部分がブロックチェーンを使っていないことになり、その仮想通貨プラットフォームそのものが、離散数理上は、ブロックチェーンを使っているとは言えず、ブロックチェーンの安全性を一方で主張している以上、投資家保護の観点から大きな問題である。

まさに、コインチェック問題がこれである。にもかかわらず、問題なのはコインチェックであり、ブロックチェーンではないという言い方がされる。実際はブロックチェーンがスケーラブルでなく、大規模運用では実時間で使えないから、危険なオフチェーン処理が横行している。ブロックチェーンは大きな問題がある技術だと前々から私が言ってることが、コインチェック事件で実際に証明された。

ブロックチェーンはすごく遅い技術なので、よく、ブロックチェーン技術の話で送金が早いという言い方がされるがこれは本質的に誤りだ。まず、銀行送金はそんなに遅くない。もちろん国内の銀行間なら、同銀行間なら即時、他銀行でも営業時間内ならほぼ即時、他行で時価外でも翌朝の営業開始時間には着金している。海外はSWIFT経由だが、SWIFTは現在システム改善の結果、先進国間ではほぼ一日で届いている。ヨーロッパへの送金を最近何度かしたが一日で届いている。時差があるので、これは感覚で言うと国内の他行宛とそんなに変わらない。

一方、仮想通貨では、最大のビットコインでは数日かかるケースが普通に起きており、昨年のフォーク後も改善されていない。昨年末からは送金そのものを受付けない取引所もかなりある。その他の仮想通貨でも数時間は普通であり、国内なら銀行の方が間違いなく早い。もしもブロックチェーンがメガバンク規模の運用をされるならば、ブロックチェーン経由の方が遥かに遅いので、送金にブロックチェーン仮想通貨を使う人は誰もいないだろう。

これは、ブロックチェーンが2月1日(http://www.tomabechi.jp/archives/51560563.html)にも書いた通り、計算量の複雑性ですごく遅いからだ。ナカモト論文の頃からずっと言っているが、ずっと理解されないで来た。要するに、ブロックチェーンは、本来の用途の送金には遅くて使えず、本来の用途でない仮想通貨の投機的用途に使われているというのが現状だ。

厳密に言えば、ブロックチェーンは、二重送金を防ぐためにトランザクション(取引)をブロック化して検証する部分のことだが、ナカモト論文を読んでない人達が取引帳簿(送受金記録台帳)のチェーンであるトランザクションチェーンまで含めてブロックチェーンと呼んでいるようなので、私はブロックチェーンを利用したトランザクションチェーンまで含めた全体をブロックチェーンプラットフォーム、検証ブロックのチェーンの部分をナカモト式にブロックチェーンと呼んでいる。トランザクションチェーンは本来ブロックチェーンからリアルタイムに構築されるが、プラットフォームによっては別途維持される場合もある。

ブロックチェーンが、検証された取引ブロックの木構造のチェーンとなると同様に、取引記録のチェーンも、過去の取引の木構造になる。ブロックチェーンは、最長のものが選ばれるので、木は細長くなるが、トランザクションチェーンは、全ての送金記録が木構造になるので、広葉樹の様になり、LogN照合負荷は大きい。

従って、トランザクションチェーンに関しては、UTXO(未使用取引出力)の木構造処理をせずに金額を直接書き込むようなイーサリアムやNEMなどのプラットフォームもあるが、UTXOと同等のセキュリティを維持するには、結局、同様な過去データに対する木構造参照が必要となり、最低でも同クラスの計算量の複雑性となる。これは、先日の非専門家向けのNEMトランザクションの計算量の推定に、健全であればUTXOと同等とみなしていたことで、気づいた人は気づいただろう。

ここで、重要なことを理解して欲しい。

ナカモト論文(https://bitcoin.org/bitcoin.pdf)に戻って見れば自明だが、二重払いの問題が解決されるならば、ビットコインにおけるUTXOチェーンのようなトランザクションチェーンを離散数理的に単調的に維持できれば、ブロックチェーンは最初から本来必要ない。にも関わらず、ブロックチェーンの安全性や万能性ばかりが取り沙汰され、現実問題として、看板どおりの安全性を出すには数百万人、数千万人がそれぞれ頻繁にFXのようなアクセスをする規模では、ブロックチェーンは遅くて使えないという事実が無視されている。(またはフォークという根本的に仮想通貨運用上あってはならない方法を当たり前のように実行したり、セキュリティの低いオフチェーン処理を前提としたプラットフォームが使われたりしている)。ブロックチェーンのせいぜいの使いどころは市町村の住民票とか印鑑証明のオンラインやり取りとか、数十万人から数百万人がたまにしか利用しないような用途だろう。

もちろん、これは、元々、ビットコインなどが、銀行送金に代わる技術として、ブロックチェーンを利用しているからで、投機的なFXやオンライン株式投資に類するような、大量のユーザ(ウォレットノード)が頻繁に一日に何回も送金や残高参照をすることを前提としてないので、初期のブロックチェーン設計者や実装者の責任とは言い切れない。

ナカモト論文で言えば、ブロックチェーンは二重払いを防ぐ工夫であり、マイニングはCPU資源をマイニング者に提供させるインセンティブに過ぎず、マイニングは計算リソースと、原発や化石燃料燃焼による環境負荷の高い電気エネルギーの世界的な無駄遣いだ。

ナカモト論文の中心は、通貨を未使用の受け取り台帳として表現し(新しい)、その単調性をハッシングと秘密鍵署名で維持する(新しくない)という二つのアイデアであり、ブロックチェーンはおまけに過ぎない。そのおまけのブロックチェーンはすごいとかいう話だけが一人歩きしてる。実際は大規模実運用では、遅くて使えず現実的な技術ではない。何度も指摘してきた通りだ。

ブロックチェーンの計算量の複雑性からスケーラブルでないことは自明で、ビットコインのフォークが容易に予想されるに至り、また、ビットコインよりもっと安全性の低いプラットフォームがどんどん出てきた状況を鑑みて、2014年から2015年にかけて、苫米地アルゴリズムを利用して90年代から研究を続けてきた仮想通貨プラットフォームであったベチユニット(もっと早いバージョンもあるし、また命名は90年代の少し後)を、通常のOSと通常のプログラミング言語向けにP2Pクライアントモデルで再設計した(オリジナルは無限長データが扱える動的言語ANSI Common Lispの並列インプリメンテーションで構築された分散動的ネーティブヒープ超並列仮想マシン上に構築) 。

ベチユニットプラットフォームは、ブロックチェーンを使わずに、二重払いの制止を含む単調性が出せるので、近年また各国の一部関係者から問い合わせがあったことあり、現代の仮想通貨の実情にも合わせて一般化したホワイトペーパーを英文で書いた。最近も、米国の大物専門家にも正月明けに渡してある。

また、日本国内での仮想通貨バブルが目に余る状況になったのにも危惧を感じ、昨年夏に、消費者保護と仮想通貨啓蒙のレクチャーシリーズを作ることにした。

その後、コインチェック問題が起き、現在に至っている。

私のレクチャーシリーズが元々2月1日スタートで決まっていたので、コインチェック問題前に配信会社が用意したプロモート動画が仮想通貨裁定取引肯定というトーンで、賛否が来ているが、内容の方は私がしっかり話しているものなので、安心して欲しい。また、一般には開示していないベチユニットの話題が出て来る。ベチユニットについては、仮想通貨について話すにあたっては、避けて通れない。もしも知らない専門家がいたとしたら2000年代以降に専門家になった人達だろう。

ベチユニットプラットフォームは90年代から3フェーズで大規模になったり、ひと休みしたりしながら継続してきた。

第1フェーズは80年代後半のカーネギーメロン研究員時代から90年代前半の徳島大学助教授時代で、主に基礎数理を。また90年代初頭に二回政府プロジェクトのATRにカーネギーメロン大学からの滞在研究員としての滞在中は、ATRの共有メモリ型並列マシンSequent Symmetry上の並列Common LispであるAllegro CLIP上にシミュレータ超並列実装をした。第2フェーズは90年代中盤のジャストシステム時代を経て日本国内と米国内でのパートナー機関での基盤技術開発。ベチユニットという名前そのものはジャストシステム時代の呼び名であるが、オウム事件が起こり警察の要請でジャストシステムを離れたので、その後はジャストシステムとの関わりはない。

ベチユニットは、物理CPU並びに物理メモリから抽象度で完全に切り離された動的分散超並列処理が前提で当初設計されており、必要な超並列MIMD仮想マシン上での並列動的オブジェクト指向言語と動的分散ヒープ型分散OSを、共有メモリ型並列マシン上のOSシミュレータ上で再度実装した。これはサイバーセキュリティ上での設計思想でもある。第3フェーズは日本政府予算並びに米国パートナー企業による米国政府予算での研究開発で、90年代後半から2000年代中盤まで。主に周辺基盤技術開発を行った。サイバー戦争レベルの耐攻撃性もひとつの成果で、私の設計で、ある米防衛機関が開発したスピンオフサーバは現在も実運用しているという話だ。

当初から仮想通貨が中心的応用技術のひとつであるが、超並列マシンハードウェアでメモリ空間レベルからの離散的単調性を前提としていたので、あらゆる計算機構の基盤プラットフォームとしての開発であった。超並列人工知能の知識や推論の対ハッキング性を高めるのも当然テーマのひとである。その後、2000年代後半は、海外でのパートナー機関との研究が中心となった。近年にわかにAIやフィンテックで計算機科学関連大規模政府予算が国内で再開したが、2000年代半ばから他社民間企業識者によるいわゆるピアレビューが日本の政府予算制度に導入され、知的財産権とセキュリティのリスクを認識する事態を経験したので、その後国内での政府予算は一切申請していない。

そして2008年にいわゆるナカモト論文の最初のバージョンが出て、ビットコインの時代が来るが、正直言って、方向性も数理レベルも全く異なり、必要に応じて関係者にアドバイスしたりNDAを結んだ上で一部の技術を開示する程度の関わりで来た。ただ、P2Pの普及に関して言えば、ファイルローグ裁判で、東京地裁に意見書を提出したり積極的な関わりをしてきた。また、アナログ放送時代に、震災に先駆けて、テレビ放送をパソコンや携帯端末にハイブリッドP2P配信するKeyHoleTVを手がけたのも2000年代初頭だ。

このように、規模は大きかったり、小さかったり、小休止したりしたが、ベチユニットの研究開発は90年代から継続してきた。2000年代は、一般ユーザのCPUが充分に早くなり、またブロードバンド接続が現実化したこともあり、超並列ハードウェアと超並列分散OSの開発は中断し、一般のパソコン上に仮想マシンと、次世代分散O/S、次世代動的オブジェクト指向プログラミング言語を実装する方向性に移行した。マイクロソフトのミレニアムと合わせて知られていた私の設計のPost-Grid OSの名前は耳にしたことがあるかも知れない。

ちなみにこの間、私の設計の、既存OS上で仮想マシン稼働する動的分散オブジェクト指向ミドルウェアにより、大量スレッド立ち上げと超並列動的オブジェクト指向計算を実現して、超高速データベース機能を実現した、私が設計から実装まで面倒をみたハードウェアは、理研にゲノムコンピューティング用に納入された。ゲノムデータは巨大データであり、当時のデータベースのエントリーとしては大き過ぎたので、無限長データが扱える動的オブジェクト指向モデルと、Linuxをバイパスして大量スレッド立ち上げを可能にするアーキテクチャが役に立ったからだ。この頃、日米の複数の政府機関に、同様な、私が設計、もしくは実装まで関わったシステムを納入している。ある重要エリアでの超高速性も特徴であり、私が戦略コンサルタントであった米機関が米政府のコンテストで数年間優勝し続けたのはこの頃だ。

今の、Linuxで代表されるOSは基本アーキテクチャが古すぎ、同時実稼働スレッド数は桁違いに少なく、メモリ空間も静的で、スレッドやメモリレベルのセキュリティが特に低すぎる。セキュリティの例で一つ簡単に言えば、どんなに強度の高い暗号アルゴリズムを使ってもメモリ上では復号状態で、メモリ空間をハッキングすれば簡単に抜いたり改竄出来る。

現在のプログラミング言語に至っては、末尾再帰や遅延評価も書けないレベルのプログラマーに合わせてか、あまりに不完全過ぎる。大きくの簡易言語は、表示的意味論の証明さえない。最低でも、ちゃんとラムダ抽象が理解出来るレベルまで教育してからプログラムさせないと、そのうちAIしかまともなコードが書けなくなる。プログラマーの教育不足に合わせた一部のヴィジュアル言語や簡易言語などの方向性は間違っている。

ブロックチェーンが実装されるようになった2009年以降は仮想通貨に関しては、海外の関連研究機関との関わりが主になり、仮想通貨時代の経済モデルまでも研究するに至ったが、数理モデルの更新まで含めて基礎研究開発は止めたことはない。

ベチユニットの内部構造については、90年代から守秘義務契約を結んで一部のエキスパートにしか開示したことはない。当時から、政府デジタル通貨や政府レベルの規模での運用を前提とした大規模運用を前提としているので、セキュリティリスク回避という意味もあるが、NDAは双方向性なので、私の側にも非開示義務があるからだ。

ちなみに、ベチユニットが「世界最初の仮想通貨」という言い方が流れてるが、正確ではない。「世界最初であり、現在でも唯一の、本物の仮想通貨」というのが正しい。なぜなら、ブロックチェーンベースのビットコインで代表される現在の「仮想通貨」はただのレッジャー(帳簿)であり、通貨はどこにもない。だから本物の仮想通貨でない。だからこそ色々な問題が起きている。

具体的には、ブロックチェーンプラットフォームでは、未使用の受け取り帳簿の記録が通貨機能を持つだけで、通貨の実体はない。だから、コインチェック事件のように不正送金や、マウントゴックス事件のように秘密鍵をハードディスクごと紛失したりすると、通貨が“消滅”するのである。実際は消滅するのではなく、元々ない。

双方向NDAがあるので、話せるレベルで言えば、ベチユニットプラットフォームでは、通貨は単調性を維持した本物のデータ構造である。ブロックチェーンのように全履歴が維持され、もちろん分散管理されている。原理的にトラストレス運用も可能だ。全ての分散管理された通貨が盗まれたり、改竄されたりすることは離散数理上不可能なので、通貨が失われたり、改竄されたりすることはあり得ない。ブロックチェーンが量子アタックがなければ改竄不可能なのと同じだ(実はベチユニットの数理は耐量子性も高い)。

だから、ベチユニットは本物の「仮想通貨」であり、ビットコインやNEMを含む現行の仮想通貨は全て、「本物の仮想通貨」ではない。ベチユニットでは、通貨データ構造そのものが経済価値を持ち、紙幣や貨幣のように流通する。コピーの作成も、プリンター印刷で紙幣としての利用も自由だが、どれか使えば、他は離散数理上消滅する。

ベチユニットでは、分散単調性管理されるのは、通貨そのものであり、ビットコインなどでは、分散単調性管理されるのは、帳簿(ブロックチェーン)だ。いくら帳簿が合っても、現金が盗まれたら終わり。これがブロックチェーンの致命的欠点だ。ベチユニットでは、通貨そのものが分散単調管理されるから改竄出来ないし、盗めない。

ベチユニットは「本物の仮想通貨」であるから、不正送金されても、ハードディスクを失っても、量子計算機で暗号が破られても大丈夫な、quantum-resistant、post-quantum アーキテクチャとも言える。単調性の離散数理を暗号的一方向性関数に依存してないからという言い方も出来る。

もちろん、政府レベルやメガバンクレベルなど、充分な資金で(オフチェーン部まで含めた全経路の)ブロックチェーンをリアルタイム運用することが可能であるならば、通貨はベチユニットアーキテクチャ、帳簿管理はブロックチェーンでという二重の安全性での使い方も可能であるが、これは精神衛生上の話。もしくは不完全な運用上の話で、離散数理上では、ベチユニットプラットフォームがあれば、ブロックチェーンは不要だ。また、アーキテクチャ上、自己取引やグループ取引による価格操作がアドレス等を変えても困難になっている。

ベチユニットの基本数理は90年代には完成しているが、要素技術は多岐に渡り、いくつかの基盤技術は米国内で開発した。また、一部の基盤技術は、日本国内で、私が研究代表者を務めた以下の政府予算プロジェクトなどでも開発している。もちろん、全世界のトップ科学者、技術者とディスカッションをしてきているので、日米だけのおかげというわけでもない。

通商産業省平成9年度高度情報化支援育成事業「ネットモバイル強化型の汎用動的計算機構の設計と構築」

総務省平成14年度戦略的情報通信研究開発推進制度の研究開発「次世代P2P型コンテンツ流通高度化技術に関する研究開発」


残念なのは、90年代からずっと指摘してるのに、数百億円規模の不正送金がされるまで、私の話を理解しようとする人達が極めて少なかったことだ。もしくは、不労所得の煩悩で理解したくなかっただけかも知れないが。