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まえがき
この本は私の祖母が当時八十九歳の昭和五十三年九月から翌年の七月にかけて、「潮音」の歌人としての短歌を織り込みつつ、明治、大正、昭和にわたる長い生涯の思い出を綴ったものですが、九十歳の年齢にもかかわらず、その記憶力と文才には誠に驚嘆すべきものがあります。
当時この原稿を読んだ私の父が、長年の知人である「暮しの手帖」の大橋鎮子社長と相談し出版を検討したようですが、内容がかなり私事にわたっており、また当時父をはじめ父の上の兄たち三人すなわち私の叔父たちも皆現役で、それらの友人、例えば宮沢喜一氏ら著名な方々の記載もあることから、祖母や叔父の意見も聴取し私費出版としたようです。
ただ父の話ではこの原稿を読んだ大橋鎮子氏が内容に大変感銘を受け、将来の出版を見込んでか、“装丁は是非私にやらせて欲しい”とのことで、ご本人の話では京都まで赴いてこの本の表紙の模様になっているきれじ(ジャワ更紗)を探しあてたとのことでした。
昨年一月に祖母の三十三回忌を済ませました。
私費出版から三十数年経ち、この本を今あらためて読み返してみますと、内容の私事もさることながら、明治、大正、昭和の世相を彷彿させる貴重な文章が随所に見られ、また列挙されている人々、小泉八雲、夏目淑石、嘉納治五郎、山本五十六、宮沢喜一氏らも歴史上の人物になりつつあり、公にしても良い時代になったと思いこの度の出版に踏み切った次第です。
なお、読者の皆様のご参考のため人物相関図と注記を随所に設けるなどの監修をいたしました。
平成二十九年八月
監修 苫米地 英人

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